イオン液体/高分子複合膜を用いた二酸化炭素分離技術

最終更新日:2018.6.29

温室効果ガスとして知られる二酸化炭素(CO2)を分離・回収・貯蔵するcarbon capture and storage (CCS)技術の低コスト化が求められています。この問題を解決する低コストな分離法の一つとして、CO2のみを通す膜を用いることで排ガスからCO2のみを選択的に回収する、膜分離法が挙げられます。膜材料の中でも、イオン液体と呼ばれるCO2を溶かす特殊な溶媒と高分子を組み合わせたイオン液体/高分子複合膜は、高い分離性能と温度・圧力に対する安定性を示すとして注目されています。我々の研究室では、CO2分離を目的としたイオン液体/高分子複合膜の開発に成功しました。


近年、温室効果ガスとして知られるCO2の排出量を削減するため、CO2分離回収貯留技術(CCS: CO2 Capture and Storage) の確立が求められています。CCSに必要とされるエネルギーコストの中で、大部分を占めるのが分離回収技術といわれており、新規手法の開発が必要とされています。CO2分離法の一つである膜分離法は、ガス透過性のある膜を用いてCO2と他のガスを分離する手法です。膜への吸着のしやすさ、溶解度の違いなどを利用してCO2を他のガスよりも多く通す膜を開発することで、ガスの分圧差だけを駆動力として分離でき、エネルギーコストが小さい手法として注目されています。

1999年、Brenneckeらがアニオンとカチオンのみからなる室温付近で液体状態の塩であるイオン液体(IL: ionic liquid) が、CO2を他のガスよりも多く溶解することを報告しました[1]。ILはガスに対する溶解度の違いだけでなく、難揮発性、難燃性といった特徴を有するため、CO2分離回収に用いた際、系外への汚染や揮発によるロスがなく、高温で使用できるなどの利点が期待できます。
当研究室では、酒井らが2008年に報告した四分岐のポリエチレングリコール[2]の末端同士を繋げた網目、Tetra-PEG網目をイオン液体の支持体として用いた複合膜を作成しました。イオン液体に二種類のTetra-PEGを溶かした溶液をそれぞれ作成し、それらを混合するだけで分離膜が作成できるため、製膜性に優れています。また、吸収媒体であるイオン液体が重量で95%近くを占めているため、高いCO2分離性能を示します[3]。
また、このイオンゲルは5 MPaという高圧のCO2加圧条件下においても破損せず、非常に優れた機械的な強度を示すことが分かっています。このように、機械的に安定で繰り返し使える性質を持つイオン液体/高分子複合膜は、環境問題の解決に対して大きく貢献する可能性を秘めていると言えます。

[1] L. Blanchard, D. Hancu, E.J. Beckman, J.F. Brennecke, Nature 1999, 399, 28.
[2] T. Sakai, T. Matsunaga, Y. Yamamoto, C. Ito, R. Yoshida, S. Suzuki, N. Sasaki, M. Shibayama, U. Chung, Macromolecules 2008, 41, 5379.
[3] K. Fujii, T. Makino, K. Hashimoto, T. Sakai, M. Kanakubo, M. Shibayama, Chem. Lett. 2015, 44, 17.