近年のリビング重合法の発達によって、分子量分布の非常に狭い(長さのそろった)ブロックコポリマーや、グラジエントコポリマーといって分子鎖に沿ってモノマー組成が連続的に変化するポリマーの合成が可能になってきました。ブロックコポリマーに関してはたくさんの研究例がありますが、グラジエントコポリマーではどのような違いがみられるのでしょうか?
 左下図はブロックコポリマー水溶液(1wt%)における光の透過率の温度依存性を示します。温度を上げていくと、20℃付近で急激に透過率が下がる(白濁する)ことが分かります。一方、右下図に示すように、グラジエントコポリマー水溶液(1wt%)の場合は透過率が徐々に変化しているように見えます。
 このような性質がどのような構造に起因するのか、SANSを用いて調べてみましょう。

 SANS測定結果を見てみると、低温(15℃)ではどちらの系でもポリマーが溶媒中に均一に分散していることがわかります。これはブロックでもグラジエントでも同じ状態です。温度を上げていくと、どちらの系でも球状ミセルが形成されることがわかりましたが、ブロックとグラジエントの散乱関数に顕著な違いが現れました。

 ブロックの場合は、ミセルが形成された後は温度を上げても変化はありません。白濁はこのミセルの凝集の結果生じると考えられます。
 グラジエントの場合は、温度を上げるにつれ、ミセルのコアがだんだん大きくなっていく一方、コロナは小さくなる、すなわち釣り糸をリールインしていくような過程が存在すると考えられます。

 これらの違いはブロックコポリマーとグラジエントコポリマーの分子構造の違いによって、ミセルを形成するときの分子鎖の集まり具合が異なることから生じると考えられます。

Okabe et al., Macromolecules, 39 (2006) 1592.