架橋点が動く!? 環動ゲルの構造を調べる
2011.3.29; 最終更新日:2014.9.18
2002年、ゲルの架橋点が動く環動ゲルという感動的なゲルが開発されました!その構造とは?
高分子ゲルの網目構造
高分子ゲルは、高分子鎖が架橋点で繋がることにより三次元網目構造を形成しています。架橋点の形成は共有結合や物理結合によるために、架橋点はゲル網目内に半永久的に固定化されてしまいます。また、架橋点はゲル網目内に不均一に分布して存在することが知られています。ゲルの持つ不均一性は、一般的に、架橋不均一性(空間不均一性)と呼ばれています。下の図は、従来の高分子ゲルの網目構造のイメージ図を示します。青色の部分は、架橋点が密集している部分です。架橋点が下の図のように不均一に分布することにより延伸性、膨潤性などの物性に大きな影響を与えます。架橋点が動くゲルの合成
東京大学大学院新領域創成科学研究科の奥村泰志博士、伊藤耕三教授は、超分子の一つであるポリロタキサンを用いて架橋点が自由に動く高分子ゲルを開発しました。ポリロタキサンは、ポリエチレングリコール(PEG)にα-シクロデキストリン(CD)が包接されたものです。PEGは(CH2CH2O)を基本単位として繋がったものです。また、CDは表面に18個の水酸基を有する環状分子です。簡単な模式図は、下の図のようになります。PEGに包接されたCDは、PEG鎖に沿って自由に動くことが可能です。ポリロタキサンのCD同士を繋げることによって高分子ゲルのような三次元網目構造物を作ることができます。このゲルのことを「環動ゲル」と呼びます。環動ゲルの模式図を下に示します。
環動ゲルの架橋点は高分子鎖に沿って自由に動くことができるために、高分子網目にかかる弾性エネルギーを最小にするように配置することが予想されます。動く架橋点を持つ高分子ゲルは、環動ゲルが初めてであり、高分子ゲル研究において非常に注目されています。柴山研究室では、中性子および光散乱を用いて環動ゲルの構造およびダイナミクスについて、伊藤研究室と共同研究を行っています。
環動ゲルの構造
我々は小角中性子散乱法を用いて環動ゲルの構造について研究しています。今回の実験では、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)およびジメチルスルホキシド(DMSO)中での環動ゲルの構造について検討しました。その結果、環動ゲルの構造は溶媒環境に強く影響されることが明らかになりました。 光散乱実験から溶媒環境によりCDの溶媒中での分散状態が大きく異なることが分かりました。すでに書いたようにCDは分子表面に18個の水酸基を有しています。水酸基は水素結合形成能をもち、水素結合形成によるCDの凝集性が環動ゲルの構造に大きく影響します。NaOH水溶液では、水酸基は解離し電荷を持つことから、電荷の反発によりCDの凝集性は低下します。それに対し、DMSO溶液ではCDの水素結合形成を大きく阻害しないために、NaOH水溶液中に比べてCDの凝集性が高くなります。下の図は、各溶液における高分子鎖上に存在するCDの状態を示します。NaOH水溶液
DMSO溶液
小角中性子散乱測定でも溶媒により環動ゲルの構造が大きく異なる結果が得られました。NaOH水溶液では環動ゲルを構成する高分子鎖はガウス鎖的挙動をします。これは、水酸基の解離によるCDの凝集性の低下および静電的相互作用(斥力相互作用)の結果と考えられます。それに対し、DMSO溶液では高分子鎖は棒状鎖的挙動をしました。これは、CDの凝集により高分子鎖の屈曲性が低下したためと考えられます。これらの結果は、Macromolecules(vol.37, page. 6177)に掲載されました。