DNA架橋ゲル
最終更新日:2022.5.16
ハイドロゲルはヨーグルトやスライムなどに代表される,柔らかく,流動性を示すことができる材料で,人工硝子体や癒着防止材などの医用材料としても応用されています。ハイドロゲルを医用材料に応用するには,その流動性を予測・制御することが重要ですが,生理的条件下で実現することはこれまで困難でした。本研究では,DNAが作る二重らせん構造の安定性が,DNAの塩基配列に大きく左右されることに着目し,DNA二重らせん構造で架橋された新しいハイドロゲルを合成しました。このゲルのマクロな流動時間を調べたところ,DNA二重らせん構造の解離時間と幅広い時間領域で一致することが判明しました。DNA二重らせん構造の安定性は,塩基配列を設計することで自在に調整できるため,本手法を用いてゲルを合成することで,生理的条件下においても任意の流動性をもつハイドロゲルを合成できることが示唆されました[1]。
合成されたDNAゲルは無色透明で,70ºC程度に温めると溶液 (ゾル状態)になり,生理的条件程度に冷却すると再びゲル状態に戻ります(図1)。DNA二重らせん構造が存在するときにのみ蛍光を示す試薬をゲルに添加したところ,ゲル状態でだけ蛍光が観測され,DNA二重らせん構造の形成によりゲルが作られたことが確認できました。また,DNAゲルのナノ構造を,小角中性子散乱法を用いて評価したところ,DNAが一定の距離を保ったままゲル内に存在し,秩序立った網目構造が形成されていることも判明しました(図2a)。
図1. (左) 本研究で合成したDNAゲルの模式図。DNAは二重らせん構造を形成するが,絶えず解離と結合を繰り返す。(右)試験管に入れた透明なDNAゲル。室温ではゲル状態であるが,温度を上昇させるとDNAの二重らせん構造が解離してゾル状態(液体)となる。DNAゲルに蛍光色素を入れた場合,DNA二重らせん構造が形成されるときにのみ,緑色蛍光を示す。
続いて,DNAゲルのマクロな流動性と,架橋点であるDNA二重らせん構造の安定性を,様々な温度条件下で測定したところ,ゲルの流動時間がDNA二重らせん構造の解離時間と,0.1 – 2000秒という幅広い時間領域で一致しました(図2b)。この結果は,DNA二重らせん構造の安定性を調整することで,ゲルの流動性を精度良く予測・制御できることを示しています。 DNA二重らせん構造の安定性は,DNAの塩基配列を設計することで自在に調整できるため,今回開発したDNAゲル作製方法を用いることで,理論上,生理的条件下において任意の流動性をもつハイドロゲルを合成できるようになりました。本研究グループは今後,実際にDNA塩基配列を調整し,様々な流動性をもつハイドロゲルを開発する予定です。
図2. (a)小角中性子散乱プロファイル。(b)ゲルの流動性とDNA二重らせん構造の解離時間の関係。両者は,0.1 – 2000秒という幅広い時間領域で一致した。
[1].Ohira, M., Katashima, T., Naito, M., Aoki, D., Yoshikawa, Y., Iwase, H., Takata, S., Miyata, K., Chung, U., Sakai, T., Shibayama, M. & Li, X. Star‐Polymer–DNA Gels Showing Highly Predictable and Tunable Mechanical Responses. Adv Mater 34, 2108818 (2022).