オイルゲル化剤は、少量を添加するだけで油や有機溶媒をゲル化させることができる化合物の総称です。環境に有害な廃液の効率的な回収・処理方法として、オイルゲル化剤を使用することが考えられています。
ゲル化にはいろいろな様式があります。溶液中で低分子のモノマーを重合する過程に架橋を導入したり、高分子溶液に放射線を照射したりすると、共有結合で結ばれた化学ゲルが生成します。高分子の持つ官能基を利用して水素結合などの物理的相互作用によって架橋を導入すると物理ゲルが生成します。オイルゲル化剤はもともと低分子ですが、可逆的な物理的相互作用を利用してネットワークを形成するので、物理ゲルの系に分類されます。どのようなネットワークが形成されるのでしょうか?
オイルゲル化剤には多種ありますが、今回はこれらの試料について調べました。臨界ゲル化濃度はオイルゲル化剤と溶媒の組み合わせによって異なります。
例えば試料P-1の場合、わずか数%の添加でこのように多彩な溶媒をゲル化させることができます。
ゲルを電子顕微鏡で見ると、ナノメートルスケールの繊維状構造体が確認できます。オイルゲル化剤分子の会合体と考えられますが、一分子のサイズは1nm程度なので、たくさんの分子が会合した巨大な構造体です。
オイルゲル化剤に必要な条件はなんでしょう?これまでの研究から、(1)油溶性(油や有機溶媒に溶解すること)

(2)自己集合性(物理的相互作用によって会合体を形成すること)

(3)非結晶性(会合が適度に阻害されて空間的に広がること)

が重要であると分かってきており、これらの観点から分子設計がなされています。

SANS測定からゲルのネットワーク構造を調べていきます。まず、オイルゲル化剤の濃度が高いほど散乱強度が大きいことがわかります。しかも、濃度の値でわり算すると、同じオイルゲル化剤ー溶媒の組み合わせではほぼ同じ関数が得られました。これはオイルゲル化剤の濃度は構造の数密度に寄与するだけで、構造の局所的な形状には影響しないことを意味しています。
得られたSANS関数に対してモデル関数でフィッティング解析すると、どの系でも形成される局所構造は円柱状粒子として記述でき、その太さや長さが系を特徴づけていることがわかりました。
オイルゲル化剤は溶媒に加えて十分高温にすると分散溶液となり、温度を下げることでゲルが得られます。この過程について光散乱強度を追跡すると、巨視的にゲル化する温度とほぼ同じ温度で散乱強度が急激に増大しました。また、溶液状態ではみられなかった散乱強度の試料位置依存性(スペックル)がゲル状態では観測されました。これらは他の化学ゲルや物理ゲルの系と同様にゲル化点を示す現象であり、非破壊的にゲル化点を決定できることがわかりました。
光散乱強度の測定と同時にDLS測定を行うと、動的性質に関して興味深い現象が見られました。多くのゲルの系において、ゲルモードと呼ばれる非常に速い(~ 1ms)協同緩和現象が観測されますが、今回調べたオイルゲル化剤の系ではNo.1の系を除いて明確な緩和モードは見られませんでした。これはゲルを形成するネットワークが堅固で易動度の小さい構造であることを示しています。これは、得られるゲルが巨視的に非常にもろいことと深く関係していると考えられます。
ゲル化の様式に対して図のようなモデルが考えられ、オイルゲル化剤分子の個性によって、得られるゲルの物性が異なることが説明されました。

関連研究:
S. Okabe, K. Hanabusa, M. Shibayama: J. Polym. Sci. B 43 (2005) 3567
P. Dastidar, S. Okabe, K. Nakano, K. Iida, M. Miyata, N. Thonai, M. Shibayama: Chem. Mater. 2005, 17(4) 741
S. Okabe, K. Andoh, K. Hanabusa, M. Shibayama: J. Polym. Sci. B 42 (2004) 1841