ナノコンポジット型ヒドロゲルの構造解析
従来の化学ゲルはその架橋点の空間不均一性のために、非常に変形に弱く、工業的な応用が制限されてきました。ところが近年、川村理研の原口博士らは粘度(クレイ)を架橋点としたナノコンポジット型ヒドロゲル(NCゲル)の合成に成功しました。NCゲルは従来の化学ゲルと比べて、50倍以上の延伸性、10倍以上の 破断強度を示すほか、高収縮性、高い透明性といった非常に優れた力学特性を示します。
ではなぜ、架橋点をクレイにしただけで、NCゲルはこれほどまでに優れた力学特性を示すのでしょうか?
そこで小角中性子散乱(SANS)を用いてNCゲルの力学特性の発現メカニズムを調べました。下に延伸状態でのNCゲルの散乱パターンを示します。上はD2O溶媒、下はクレイにコントラストを合わせた溶媒での結果です。これにより、クレイもポリマーも見えている状態(D2O)とポリマーだけを見ている状態(マッチング溶媒)を知ることが出来ました。さらに詳しい解析を行った結果、下図にしめすような特徴があることがわかりました。
上の図に描かれているように、従来の化学ゲルでは、ゲル内に不均一に分布した架橋点が高分子鎖を結びつけています。そのため延伸時に、最も短い高分子鎖に力が集中してしまい簡単に切れてしまいます。これに対し、NCゲルではクレイは非常に均一に分布し、クレイは円盤表面で多数の高分子鎖と結びついています(高強度)。また、NCゲルの高分子鎖は化学ゲルに比べて長いこともわかっています(高延伸性)。