中性子スピンエコー法
2014.3.14廣井卓思氏作成; 最終更新日:2016.11.6
2021.5.31 NIMS廣井卓思氏による更新
中性子で物質の動的挙動を追う手法
中性子は、小さな磁石としての性質を持ちます。 S極からN極を指すように矢印を描くと、磁場に対して上の図のようにぐるぐると回ります(歳差運動)。 この回転を使って、中性子が物質によって散乱されたときのエネルギーの受け渡しの様子を見る手法が、中性子スピンエコー法です。
原子炉や加速器から出てくる中性子は、速度がバラバラです(白色)。 速度が異なる中性子を磁場中に入れると、それぞれの速度に応じた時間だけ回転するため、磁場を通り抜けた後の中性子の向きはバラバラになります。 しかし、向きがバラバラになった中性子は、逆向きの磁場を同じ強さ・同じ長さだけかけると元の状態に戻ります。 この現象を、中性子スピンエコーと呼びます。
先程の二つの磁場の間に何らかの物質を置いた場合を考えます。 中性子が物質に当たってエネルギーの一部を失うと、速度が下がり、二つ目の磁場にいる時間が長くなるため、回りすぎてしまいます(上の図、赤色)。 一方、中性子が物質に当たってエネルギーをもらうと、速度が上がり、二つ目の磁場にいる時間が短くなるため、回りきりません(上の図、青色)。 このように、物質との間でエネルギーをやり取りすると、最終的な中性子の向きが揃いきらなくなってしまいます。 これを利用して、最終的な中性子の向きのバラツキからエネルギーの受け渡しがどれくらい行われたのかを測定する手法が中性子スピンエコー法です。 わずかなエネルギーの受け渡しも検出できる、中性子ならではの実験手法です。