テトラペグゲル

2011.3.29; 最終更新日:2014.9.18; movie updated: 2023.5.19

ダイヤモンド骨格をもつ柔らかいゲル??


 近年まではゲルとは脆くて弱いものというイメージがありました。ゼラチンや寒天、紙おむつの吸収剤などを想像すればみなさんそのように考えるでしょう。「さまざまな不均一性」のトピックスで説明してあるように、ゲルには多くの不均一性が存在しています。そのため、ゲルに力をかけると脆いところから壊れていってしまいます。水分を大量に含んだ"ゲル"は、生体材料などとして活躍を期待されていますが、なかなか達成されない理由としてこの脆弱性が挙げられます。

しかし、2000年以降様々な強いゲルが開発されてきました。研究室トピックスに紹介している"ナノコンポジット型ヒドロゲル"もその一つです。ここでは「ソフトダイヤモンドゲル」(または、テトラPEGゲル)と呼ばれるゲルについて紹介します。東大鄭・酒井研究室で開発されたこのゲルは、骨と骨をつなぐ軟骨の代替材料として研究されています。まずは、どのくらい強いのか、動画をご覧ください。



このゲルは90%近くが水であるにもかかわらずとても強く、そして押しても水をはき出しません。なぜこんなに強靱なゲルができるのか、我々の研究室では、小角中性子散乱という手法を用いて分子レベル(ナノサイズ)の構造を調べました。この"ソフトダイヤモンド"ゲルは、四本の手を持った二種類の高分子が手をつなぐことによって大きな構造を作っており、その間に水を閉じ込めています。



小角中性子散乱測定から非常に均一な構造(紐の長さが揃っていて絡み合いが少なくダマになっていない)を作っていることがわかりました。もう少し専門的にいうと、架橋不均一性が殆どなく、局所的にみると高分子溶液的な構造です。また均一な構造であるために網目の鎖が非常に有効にネットワークを形成しています。均一であるから、力がかかった際に応力がうまく分散して、大きな変形でも壊れないゲルが作られているのです。地球上で一番固いダイヤモンドのような構造(正四面体構造)を作っていながら柔らかくて非常にタフなゲルです。まさに"ソフトダイヤモンド"と呼ぶにふさわしいゲルですね。