研究テーマ

Tetra-PEGゲルの物性研究(西)

東大工学部の鄭・酒井研で開発されたダイヤモンド型の分子構造を持つゲル(Tetra-PEGゲル)について研究しています。具体的には(i)なぜこのような均一網目が形成されるのか?(ii)この網目に欠陥があった場合に、どれくらい強度が落ちるのか?(iii)その欠陥の様子を中性子散乱で観測できるのか?といった課題に対して理論・シミュレーション・実験を組み合わせて研究を行うことで、普通のゲルが力学的に弱い原因や強くするための方法を提案しています。
Tetra-PEGゲルの分子構造。
星と三角が結合してゲルができます。

K. Nishi et al., Macromolecules, 2014, 47, 1801; K. Nishi et al., J. Chem. Phys., 2012, 137, 224903-1; K. Nishi et al., Macromolecules, 2012, 45, 1031

熱硬化性樹脂の構造解析(中尾・和泉・首藤)

住友ベークライトとの共同研究

フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂は、加熱により架橋し三次元的なアモルファス網目構造を形成します。 これらは耐熱性・機械特性さらに化学的安定性に優れているので、従来からエネルギー・半導体・輸送など高い信頼性が要求される分野に於いては必須の材料であり、さらなる信頼性が求められています。 しかしその合成過程ではゲル化を経由しまた最終的には高架橋密度の固体として利用されるので、構造が未だ良く判っていません。 我々はこの実用上重要な樹脂の架橋体構造を形成過程も含め、中性子などの散乱解析を中心に、分子動力学シミュレーション、確率過程による理論解析の3本柱で探索し、一段と信頼性の高い樹脂の開発することを目指しています。

燃料電池電極用触媒インクの構造解析(草野)

トヨタ自動車との共同研究

燃料電池自動車(FCV)の一般普及を間近に控え、固体高分子燃料電池(PEFC)の高性能化が本格化しています。 その理由は、PEFCの高性能化がFCV自体の低コスト化に繋がるためです。 このPEFCの電極は、白金などの触媒微粒子が担持されたカーボン粉とイオン性高分子材料が分散した溶液である「触媒インク」を塗布・乾燥させることで作成されます(図)。 そのため、PEFCの高性能化を考える上で、先ず触媒インク構造を明らかにする事が重要な事となっています。 我々は、この触媒インクの構造を小角中性子散乱測定により明らかにしました。

M. Shibayama et al., J. Appl. Polym. Sci., 131 (2014), 3, 39842.


触媒インクの外観

イオン液体を溶媒とするTetra-PEGゲルの開発、構造・物性研究(橋本)

東大 鄭・酒井研究室、横浜国立大学 渡邊研究室、山口大 藤井研究室との共同研究



熱安定性と高強度を両立した
Tetra-PEGイオンゲル
イオン液体は有機カチオンと無機アニオンからなり、不揮発性、難燃性、熱安定性に優れた新たな溶媒として注目を集めています。 私たちは四つ又ポリエチレングリコール(Tetra-PEG)をイオン液体中でゲル化させることで、架橋点の均一分散を実現し、圧縮破断強度18 MPaという高強度と、導電性・二酸化炭素吸収選択性といったイオン液体の溶媒特性を兼ね備えたTetra-PEGイオンゲルを開発することに成功しました。 通常、自立するゲルを得るために20~50 wt%の高分子濃度が必要となるイオンゲルにおいて、3 wt%という極端に低い高分子濃度で圧縮・引張に耐えうる力学強度を持つイオンゲルは全く新しい材料と言えます。 現在は、この高強度イオンゲルを燃料電池電解質・二酸化炭素分離膜へ適用するための応用研究及びイオン液体中のゲル化反応・溶媒和構造の解析を行っています。

K. Hashimoto, K. Fujii and M. Shibayama J. Mol. Liquids (2013)

顕微動的光散乱の開発と応用研究(廣井)

顕微鏡下で動的光散乱を取得する装置の開発を行っています。 牛乳や墨汁など、従来では希釈しなければ測定できない溶液を原液で測定することを可能にしました。 現在は、この装置を用いた濃厚系のダイナミクスの実験的な測定を研究しています。

T. Hiroi and M. Shibayama, Opt. Express, 21, 20260, 2013


顕微動的光散乱の装置の外観

親油性高分子電解質ゲルの構造解析(栃岡)

北大佐田研との共同研究



(Nat. Mater. 2007, 6(6), 429-433.)
一般的な高分子電解質ゲルは、自重の数百倍から数千倍もの水(高極性溶媒)を吸収して膨潤する性質を持ちますが、有機溶媒(低極性溶媒)中では荷電基が解離しないために膨潤しません。 しかし、2007年に北大の佐田和己教授のグループは、低極性溶媒下で解離可能なイオン対を親油性高分子鎖に導入することで、自重の数百倍もの有機溶媒を吸収して大きく膨潤する「親油性高分子電解質ゲル」の作成に成功しました(画像参照)。 このゲルは、揮発性有機化合物(VOC)や 排出油の回収などの環境問題対策の有力な手段として期待されています。 このゲルの性能を精密に制御し、また用途に合わせた自由な設計を可能として効果的に利用するためには、詳細な内部構造解析が必須となります。 そこで本研究では、このゲルのマクロな膨潤挙動とナノスケールの内部構造の関係の解明を目的とし、動的光散乱法(DLS)や小角中性子散乱法(SANS)を用いた構造解析を行なっています。

イオン液体中でのセルロースの溶媒和(廣澤)

山口大 藤井研究室との共同研究

自然界に豊富に存在する天然高分子であるセルロースはバイオマスエネルギー源として期待されている物質ですが、一般的な溶媒に対しては溶解性に乏しく、従来型のバイオマス変換においてはエネルギー効率が悪いこと、環境への負荷が大きいことが問題視されていました。 近年、イオン液体が室温下で、迅速にセルロースを溶解することが報告され、新しいセルロース溶剤として注目を浴びています。 現在私は、散乱実験によるイオン液体中に溶解したセルロースの構造解析を行っています。 小角中性子・X線散乱、動的光散乱、高エネルギーX線回折といった手法を駆使して、イオン – 高分子間のミクロな溶媒和構造、セルロース鎖全体の形態、会合体の有無などの情報からセルロースの溶解機構を構造化学的視点から明らかにすることを目的としています。

常温のイオン液体にろ紙が溶解する様子

高分子型界面活性剤によるビタミンE分散体の構造に関する研究(松岡)

太陽化学との共同研究

高分子型界面活性剤は分子中に複数の親水性部と疎水性部を有する高分子化合物で界面活性を示す物質です。 食品産業では、味覚への影響から非イオン性界面活性剤である高分子型界面活性剤が広く用いられています。 しかし、安全性の観点から化学的合成品および天然物のいずれも食品添加物として国が指定し許可したものしか使用することができません。 そのため、新たな機能を持つ界面活性剤を生み出すには基準を満たす分子種の組み合わせで新しい構造を構築する必要があります。 そのような背景で開発されたのがポリグリセリン脂肪酸エステル系の界面活性剤です。 ポリグリセリン脂肪酸エステルはポリグリセリンと脂肪酸がエステル化したものであり、親水部であるポリグリセリンの重合数と疎水部である脂肪酸の炭素数を制御することで、水系・油系への馴染みやすさコントロールすることができます。 さらに、従来の界面活性剤に比べて分散体を安定かつ透明な状態で保つことができます。 ここでは、ポリグリセリン脂肪酸エステルによるビタミンE 分散体の構造を解析し、その優れた安定性を実現する理由を解明することを目標にしています。 そして、その成果が食品産業に利用される界面活性剤の開発にさらなる発展をもたらすことを期待しています。


その他、最近行った研究は研究アーカイブ
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